ONE PIECE

『Mr.9とミス・ウェンズデーと』


「楽しいなぁ、ミス・ウェンズデー〜〜」
 Mr.9がミス・ウェンズデーに傾れかかった。真っ赤な顔で、すっかり出来上がっている様子だ。
「やめなさい、Mr.9」
「ん〜、あったかいな、ミス・ウェンズデー」
 ミス・ウェンズデーが拒否しても、Mr.9はやめる気配がない。
 今日は、バロックワークスの新年の宴だ。年に一度、各階級ごとに集まって宴を催している。参加は自由なのだが、無料で飲み食い出来るとあって、大抵が参加する。今は、フロントエージェント達が宴を開いている。宴も酣、誰も彼も酔っ払って夢心地の中、ミス・ウェンズデーは相方の人の変わり様に困惑していた。
「可愛いなぁ、ミス・ウェンズデー」
 とろんとした目つきでMr.9はミス・ウェンズデーの脚に触れた。その瞬間、ミス・ウェンズデーの身体はびくりと震えた。これまで感じた事のない奇妙な気持ちの悪さに身体が強張る。膝に乗せられた手は徐々に上がってくる。ミス・ウェンズデーは咄嗟にMr.8を探した。彼は遠くの壁にもたれて寝息を立てている。助けを求めようと思っていたのだが、とても力になってくれそうもない。大声で呼ぶのも不自然だ。見たこともないような男の顔、感じた事のない恐怖……目に涙が滲み、“もう駄目だ”と思った、その時――
「Mr.9」
 静かな声と細い手が、Mr.9をミス・ウェンズデーから引き離した。ミス・ウェンズデーが顔を上げると、そこにはミス・オールサンデー――バロックワークス副社長がいた。
「ちょっと寝ていなさい」
 床に放り投げられたMr.9は、そのまま眠りに落ちた。
「あ……あの……」
 フロントエージェントしか参加しないはずの宴に突如現れたオフィサーエージェント。しかも、副社長に、ミス・ウェンズデーは戸惑った。
「全然飲んでいないようね?」
 ミス・オールサンデーはくすりと微笑う。しかし、緩められた口元に対し、眼は全く笑っていない。ミス・オールサンデーは、すっと白い手をミス・ウェンズデーに差し出した。
「いらっしゃい」
「……どうして……」
「私の部屋で飲みましょう。ここじゃ貴方は飲めないみたいだし」
「……え?」
「貴方も、その方が好都合でしょう?」
 落ち着いた声で意味深長なことを言うミス・オールサンデーに警戒しながらも、ミス・ウェンズデーはその白い手に従った。
 宴はウィスキーピークに程近い小さな島のホテルで行われている。そのホテルの最上階に、ミス・ウェンズデーは招かれた。ミス・オールサンデーに言われるがままにベッドに腰を下ろすと、オール・サンデーはからんと氷が音を立てるグラスを差し出した。ウィスキーが注がれている。
「ウィスキーは嫌い?」
「飲んだことは……」
 ない。そう言おうとしたミス・ウェンズデーは、目の前の女の意味ありげな笑みに硬直する。
「飲みなさい。そうして、自分を“守る”事を覚えたほうが良いわ。強かでありなさい。気丈でありなさい。生きてゆきたいのなら」
「それは、どういう……」
 ミス・オールサンデーは答えず、逆の手に持っていたグラスのウィスキーを飲み干した。その挑戦的なまなざしに、ミス・ウェンズデーは意を決してグラスを唇に当て、酒を飲み下した。殆ど食べもせずにいたため、空っぽになっている胃に流れ込んだ酒は、少女を急速に変化させる。平静を保とうと懸命になりながらも、数分後、ミス・ウェンズデーはグラスを落とし、ふらりとベッドに倒れこんだ。
「……お父様」
 うわごとをつぶやいたミス・ウェンズデーの目の端に、小さな雫が光る。
「……強かに、気丈に……」
 ミス・オールサンデーは少女をシーツにくるみ、その青い髪にそっと触れる。
 決して本当の仲間になることはないのだろうけれど、ならばこそ、生きてみろと、思う。
「生き延びてみせなさい」
 ネフェルタリ・ビビ……眠る少女の名を、胸の奥で小さく唱えた。

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