ONE PIECE

『クリスマスツリーについて』


 しんと凍りつくような空の下、ロビンはほう、と息をついた。白く空気が淀んだ。骨まで凍りつきそうな寒さだが、悪くない。
「あ? 何してんだ、ロビン?」
「あら、フランキー」
 背後から声を掛けられて振り返ると、目の前のフランキーが立っていた。
「貴方こそ、どうしたの?」
「あぁ、さっきまでちょっと図面引いててよ。気がついたらこんな時間だったから」
「そう。もう寝るの? お休みなさい」
「……おめぇは、寝ないのか?」
 この寒空の下、もう随分と遅い時間だというのに、まだ部屋に戻ろうとしないロビンに、フランキーは首を傾げた。
「ん、もう少し……見ていたいの、これ」
 ロビンは顔を上げ、視線でフランキーに示した。それは、ナミの大切にしているみかんの木。その木が、きらきらと輝いていた。
「クリスマス……西の海を中心に世界中で信仰されている宗教の教祖の誕生日を祝う祭日なんだけど、樅の木に飾り付けをして祝うのだと話したら、ルフィとチョッパーとウソップが大喜びで飾り付けしていたの。最初は渋ってたけど、ナミの許可も出たしね」
 みかんの木には、靴下やモール、ステッキなどが飾り付けられていた。ロビンがその宗教に関する本を貸すと、ウソップがそれを見ながら飾りを作ったのだ。
「へぇ、そういや、聞いたことあるかもなぁ、そういうの」
「そう? もうすぐクリスマスだから、ルフィ達、きっとご馳走を作らせる気よ。どんな風に祝うのか、どんなものを食べるのか、色々聞かれたもの」
「あぁ、あれだろ、七面鳥とかケーキとか……。確かこの時期、ウォーター・セブンでも売ってたぜ。ガレーラ・カンパニーに熱心な信仰者が結構いたらしくってよ」
 フランキーはみかんの木を見上げながら、ウォーター・セブンにいた頃を思い出し、うんうんと頷いた。
「そうなの。私も、昔……逃げていた頃だけれど、街全体で信仰しているところに行ったことがあるわ。街中がこんな風に飾られていたの。ツリーの他にも、クリスマス・リースやイルミネーションがそこら中できらきらしてて、それぞれの家で、温かい食事を囲んでいたわ」
 そんな、暖かな街で、ロビンはたった一人、世界を敵に回して逃げていたのか。きっと、こんな風に穏やかに微笑んで、クリスマス・ツリーを見上げていたわけではないのだろうと思うと、フランキーは胸がうずくのを感じた。
 この感覚は、なんだろうか。仲間に同情なんかするつもりはない。哀れみとは違う感覚だ。
「嬉しい……」
 ロビンは、ぽつりと呟いた。
 “嬉しい”……そうか、こうして飾りつけられた木を見上げるだけでも、幸せなことなのだ。
「もう、一人で見る必要無ぇぞ」
「え?」
「もう、一人でこの木を見上げる事は無い。……だろ?」
「…………」
 いつも凛とした女が、突然幼い少女のように俯きながら微笑んだ。こういう顔を見ると、傍に人がいる事がどれほど幸せで、彼女にとってどれほど必要なことなのかと感じさせられる。
「ところで、ロビン、確かクリスマスの木の天辺には、星を飾るんじゃなかったか?」
「えぇ、そうよ。ウソップが見落としているみたいね」
 上の方まで綺麗に飾り付けられているというのに、本来あるべき飾りが無い事に、フランキーは不満そうだった。ロビンは、三人の初めて作ったクリスマス・ツリーが見られるだけで満足なのだが。
「しかたねぇ、明日、俺がスーパーな星を作って飾ってやるとするか」
「ふふ、楽しみにしてるわ」
「そしたら、みんなで見ればいい。みんなで祝えばいいんだから――」
 言いながら、フランキーはロビンの肩を叩いた。
「だから、今日はもう寝ろ」
「…………ん」
 ロビンの見せるこの屈託の無い笑顔が、消える事が無いように、フランキーは祈る。

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