本当の事なんか、知らない。
 出来れば知らずにいたかった。


   乙女の愛


「お前もか……」
 青みがかった長い髪を風に靡かせ、青年は神妙な面持ちで呟いた。
「いや、解ってたよ、これでも。お前はホント、文句なしに強いしさ、カミサマが放っておくわけないもんな」
 鮮やかな夕日が、鈍色の甲冑に深い影を落とす。全身を重厚な甲冑で包み、一部の隙も見せない男に、細身の女が突然槍を閃かせ、切っ先を向けた。
「エイミ……!」
「ったく……あんたはいちいち真面目で融通が利かないから嫌いだよ。あたしがどんな気持ちであんたを追っていたと思ってんだい?」
「落ち着け、エイミ」
 夕日に溶ける柔らかな声が、女を諌める。短く切り揃えた金色の髪の下で、穏やかに微笑む青年の手は、女の槍の柄を握って離さない。
「……ちっ」
 まだまだ行き場のない苛立ちを発散仕切れていない女は、あからさまに不機嫌そうな態度で舌打ちをして、溜息をついた。夕焼けの色に決して混じらない苔色のプレートアーマーが鈍く輝く。
「すまない」
 鈍色の鎧の男に言われ、金髪の青年は首を横に振る。
「貴方を責めても、エイミは救われないから……」
「尤もだ」
「解ったような事言うなよ」
 プレートアーマーの女は、ふいと外方を向いた。頬が赤らんで見えるのは、夕日の所為か。拗ねているような、照れているような口調。男達はくすりと笑う。
「自己紹介が遅れました。私は、ロウファといいます」
 金髪の青年は明るく微笑んだ。
「グレイだ」
 低く、重く、静かな声は、甲冑の中で響いた。
 長い髪の青年、カシェルと、プレートアーマーの女、エイミ、それにグレイは、同じ冒険者グループのパーティだった。グレイが起こしたある事件をきっかけにパーティは解散した。カシェルは戦士の少女、セリアと行動を共にし、アルトリアで騎士のロウファと知り合った。生まれも育ちも違う二人だが、不思議と気が合い、友となった。カシェルがロウファの友であるアリューゼと知り合い、アリューゼに憧れて大剣を振るうようになったのもその頃だ。
 まず、アリューゼが死んだ。王女・ジェラード暗殺の汚名を着せられ、捕らえられかけて、自らの誇りを貫かんと、手にしていた大剣で己の腹を斬った。罪人の身内として捕まったアリューゼの弟、ロイを救うためにロウファは騎士の身でありながらアルトリア王国を裏切り、死刑に処された。カシェルは、セリアと共に入ったダンジョンで命を落とした。一方のエイミは、グレイへの復讐心を胸に、グレイの居場所を探していた。グレイを殺してやろうと思ったわけではない。ただ、一発殴ってやりたかった。グレイを探しながらも求めつづけたのは強さ。そして、冒険の末、竜化の秘宝、竜紅玉を手に入れた。だが、不老不死を欲してその竜紅玉を狙うガノッサに捕われ、拷問の末に命を落とした。その後、アリューゼを含む四人はそれぞれ、戦乙女であるレナス・ヴァルキュリアによってエインフェリアに選定された。神界戦争“神々の黄昏<ラグナロク>”に臨む戦士として。
「でもさ……これで本当にセリアはひとりんなっちまったんだな……」
 カシェルが神妙な面持ちで呟いた。冒険者グループ時代から長く相棒として組んでいたセリアが、たったひとりで人間の住む世界――アスガルドに取り残されている。それがいたたまれなかった。
「あぁ……崩れ落ちる俺の姿に震えるセリアの顔が、頭から離れない」
 グレイが小さく首を振る。彼の鎧を風が吹き抜け、ひゅっと笛のような音を立てた。それが、彼の身体がその中に存在しない事を全員に感じさせる。
 パーティの幾人かが命を落とすような壮絶なクエスト。命を落とした中にグレイもいた事を、エイミやカシェルは知らなかった。知っていたのは、魔術師のレミアだけ。レミアは、グレイに想いを寄せていた。そのグレイの死を目の当たりにし、禁断の呪法に手を出した。換魂法。人を蘇らせる術だ。レミアは自らの命と引き換えにグレイを復活させた。その事実は、蘇生したグレイを打ちのめした。そして同じ術をレミアにかけようとしたが、自然の摂理に反することを幾度もしようとした事が神の怒りに触れたか、換魂法は成功せず、逆にグレイの肉体は消滅した。禁忌の呪法の代償は重く、肉体が消滅したにも関わらず魂は、アスガルドに留まった。グレイは生身の身体を失って魂だけの存在となり、長く人生を共にした鎧を肉体の代わりとして存在する事となった。グレイは仲間に「レミアは自分が殺した」と告げて去り、パーティは崩壊。長くさまよい、行き着いた場所はアークダインの遺跡。そこでグレイはヴァルキリーにエインフェリアとして選ばれるわけだが、グレイの正体や事件の真相を知り、最期を見届けたのは、誰あろうセリアだった。
「セリアは、あたしが死んだこと知ってんのかな……」
 近くの岩にどかっと腰を下ろしながら、エイミは遠くを見詰めた。
「セリアもレミアも、あたしにとっちゃ妹みたいなもんだったからさ……幸せになって欲しいと思ってるってのに、あんたらと来たら……」
「なんだよ、死んだのはお前も一緒だろ? 大体、レミアの気持ちに気付いてなかった鈍感男と一緒にすんなよ!」
 エイミに呆れられ、カシェルは猛然と抗議した。が、カシェルの力強い言葉に、他のメンバーがぽかんとしたのは言うまでもない。
「な、なんだよ?」
 三人の非難の目――とはいっても、グレイに目はないのだが――を向けられ、カシェルは憤慨した様子だった。
「いや、実に驚いたよ、あんたの口から“鈍感”なんて言葉が出るなんて」
「まぁ、昔も同じようなこと言われたけどな……」
「そうなんだ?」
 からかうような口調のエイミに、グレイが口を挟んだ。過去のカシェルの“鈍感発言”は、レミアや他の仲間も生きていた頃の事で、エイミも聞いているはずなのだが。グレイの様子からそれを察したらしいロウファは、なにをどう突っ込んだら良いのか解らず、ただただ苦笑していた。
「何にしても、だ。セリアが気になるなぁ」
 カシェルが溜息を零すように口にした言葉は、全員一致の意見でもあった。
「ヴァルキリー様に頼んで様子を見に行かせてもらうか?」
「許可下りないだろ」
 ロウファの提案に、エイミが肩を竦めた。尤もだと言わんばかりに、グレイとカシェルが頷く。
「グレイの鋼の鎧より冷たい女じゃな」
「……ほぅ、そんなに冷たい奴がいるのか」
 苦笑したエイミの背後で声がする。男達は顔を引き攣らせた。エイミが振り返ると、銀色の豊かな長い髪を紫紺の風になびかせて、浅葱の鎧に身を包んだ女が凛と立っていた。戦乙女、レナス・ヴァルキュリアその人だ。
「あんたに決まってんだろ?」
 神族に対しても態度を変えないエイミに、男達は感服した。恐ろしい女だ。
「セリアが気になるのか?」
「ふふん、立ち聞きとは頂けないねぇ、カミサマのくせに」
「戦乙女は神ではない」
 ヴァルキリーは顔をしかめた。主神、オーディンの命により、エインフェリアの選定を行う半神。神とは違うとヴァルキリーは思っているが、エイミからしたら大した差はない。
「セリアの事は、私も少々気掛かりだ。これからジェラベルンに行くが、セリアの気配もその近辺にある。様子を見に行くか」
「マジで?」
「良いのですか、ヴァルキリー様!?」
 カシェルとロウファが瞳を輝かせる。
「ふん、あんたもたまには良いとこあるんだな」
 悪気もなく口にしながらにっと笑うエイミの後頭部をグレイが小突く。グレイにだけは殴られたくなかったエイミは、思わずアッパーでグレイの鎧の頭部を吹っ飛ばした。急な坂道を転がったグレイの頭部は、坂の下で本を読んでいた魔術師のメルティーナに直撃し、エイミとメルティーナの喧嘩は一時間続いたのだった。
 日もすっかり落ちて、夜の帳が世界を包む頃、レナス・ヴァルキュリアはロウファ、カシェル、エイミ、グレイと共にジェラベルンへと赴いた。
「この辺りは、あまり治安が良くないようですね……」
 ロウファが眉を寄せ、呟く。
「まぁな。俺の出身は此処だから、これが普通だったけど」
「あたしも」
 カシェルとエイミは取り立てて気にした様子もなく、辺りを見回した。変わらない、と呟く。ヴァルキリーは、調べ物をしに行くと言う。
「俺達は、適当にしてて良いんだな?」
「あぁ。尤も、今のお前らは人間には見えないがな」
「構わないさ。セリア探しに行こう」
 カシェルとエイミが先に立ち、四人はジェラベルンの町の散策を始めた。
 つい先日、若き剣士、ルシオを仲間に迎え入れた町。火の放たれた貧民街は、未だに瓦礫の山だ。この瓦礫の下に、人が死んでいても不思議はない。ロウファは懸命に、瓦礫から目を反らした。
「此処からクレルモンフェランといえば、かなり距離があるな」
 重たい鎧を反響させながらグレイが独り言のように零した。
「そうですね」
「ジェイルは、よく独りであんなところまで行ったもんだ」
「確かに」
 グレイの言葉に、カシェルが頷いた。ロウファは声を詰まらせ、俯く。
 ジェイルとは、大陸南西部に位置する王立国家、クレルモンフェランの騎士団に所属していた若い剣士だ。無骨な鎧に身を包みながらも、素早い攻撃を得意としている勇猛な戦士だが、実は、過去を捨て、男として生きる女である。このジェラベルンで一般的な家庭に生まれ育ったが、一家全滅の憂き目を見て以来、クレルモンフェランの騎士団にいる敵への憎しみだけを胸に生きてきた。幼い足でクレルモンフェランまで歩いたのだとグレイが聞いたのは、つい三日前の事だった。
「この瓦礫の下にも、憎しみが埋まっているだろう。憎しみは憎しみを産み、やがて世界を包むのではなかろうか……」
「そうなったらそうなった時だ。あたしらの所為じゃないし、あたしらにはどうしようもない。っつーか、あんたのそういうややこしい考え方がトラブルの元だろ?」
 エイミはぼやきながらすたすたとグレイの前を歩く。が、突然、深い青の壁にぶつかった。カシェルが立ち止まったのだ。
「いったいなぁ。急に止まるなよ!」
 苛立つエイミの声など届かないとばかりに、カシェルは呆然と前だけを見詰めていた。
「セリア」
 その名を口にしたのは、カシェルではなくロウファだった。目の前にいるのは、捜していた娘。水の出ない崩れかけた噴水に腰掛け、俯いている。いつも結い上げていた栗色の髪は無造作に解かれ、手にした紙を凝視して震えていた。
「エイミ……」
 少女のか細い声に呼ばれ、エイミは咄嗟に「はい」と答えた。聞こえるわけもないのだが。エイミが、セリアの背後に回り、その手に握られた紙を覗き込む。右上がりの癖のある字で、エイミの死について書かれていた。
「うわ、最悪」
 エイミがぼやく。字からして、情報屋のルタが渡したものだ。いや、あのがめついルタの事だから、元・仲間の情報と言って売ったのだろう。あんな胡散臭い奴から、利口なセリアが情報を買うなんて考えられない。孤独が彼女の判断力を鈍らせたのか。髪を纏めていたシルクのリボンを、持っている限り全部渡してしまったのだろう。聖属性の攻撃を吸収するパワーを持つアイテム故、中古でもそれなりの値で売れる。レミアが術をかけてセリアに贈ったものだ。それを手放してでも知りたかった、最後の仲間の安否。エイミはそっとセリアの髪を撫でる。
「馬鹿……」
「エイミ……」
 セリアの声がエイミの胸を揺らし、ふたりの女の瞳から涙が溢れた。
「ひとりにするつもりなんかなかった……。お前を泣かせたくなんか……」
 カシェルの手が、セリアの肩に伸びる。その瞬間、セリアははっとカシェルの方を見た。
「カシェル……?」
「え、セリア……お前、見えて――」
「グレイ……レミア……バルドル……ロルフ……」
 遠くを見詰めるセリアの瞳に、カシェルが映るはずもない。
「くそっ……」
 涙を拭ってやることも出来ない不甲斐なさ、もどかしさ。カシェルが苛立ちを吐き捨てた時、人の気配が近付いてきた。
「おぉっ、ホントに上玉じゃねーか」
「すっげ、良い女〜」
 あからさまに下品な男がふたり、セリアの両脇に立った。
「お嬢ちゃん、可愛いね〜」
「俺達と良いことしねぇ?」
 男のひとりが、セリアの顎を掴み、顔を近付ける。セリアは虚ろな瞳で男を見た。そこに、何の感情も存在しない。正に、抜け殻。
「セリア!」
「セリアから離れな、下司野郎!」
「その汚い手を離しなさい」
「容赦せぬぞ!」
 四人が男達を取り囲む。だが、残念ながらその声は届かない。男達はにたにたと笑いながらセリアの腕を掴み、無理矢理立ち上がらせた。
「あんたなら、すぐにたっぷり稼げるようになるぜ」
 引きずられるようにセリアは男に連れられて歩き出した。古びた幌馬車が向こうに見える。誰もが「マズイ」と思う。何も出来ない、が、何とかしなくては。焦るロウファ、苛立つエイミ、戸惑うグレイ。しかし、カシェルだけは、一直線に男達に向かって走った。
「セリアを離しやがれっ!」
 そして大剣に手を掛けるなり飛び上がり、
「奥義・ファンネリアブレード!!」
 あろう事か、必殺技を繰り出した。それが起爆剤となり、グレイ、ロウファもそれぞれ得物を構える。何故かカシェルの攻撃は二人に直撃した。直後、
「奥義・ジャストストリーム!」
「奥義・アイシクルディザスター」
 ロウファのアックスに吹っ飛ばされ、グレイの剣に凍結された上に切り裂かれ、留めは、
「奥義・ドラゴンドレッド!」
 巨大な竜と化したエイミが、ふたりに火を噴いた。どの攻撃も直撃の割にダメージは少なかったが、それでもふたりを伸すのには十分だった。セリアは地面にへたりこみ、目をしばたたかせた。
「馬鹿者!」
 遠くから鋭い声が飛ぶ。きらりと星に輝く銀の髪を靡かせて、人間の姿を下レナスが歩み寄る。その台詞が誰に向けられているのか、セリアには解らなかった。いきなり男達が伸びた理由もまるで解らない。だが、目の前にいる女の言葉がふたりの男に向けられたものでないとすれば、怒られたのは自分だ。多分、唯々諾々と男について以降としたことを咎められているのだろう。
「ご、ごめんなさい……」
「は?」
 そのくせ、女はセリアが頭を下げると首を傾げるのだ。意味が解らなかった。だが、
「カシェル……」
「何?」
「カシェルのファンネリアブレード……ロウファのジャストストリーム……グレイの……」
 セリアが、ぽつりぽつりと口にする言葉に、その場にいた全員が言葉を詰まらせた。何が起こったのかは解らない。が、そこに誰がいるかは理解している。エイミのドラゴンドレッドはパーティ解散後に身につけた技だから知らなくて当然だ。
「もしかして、エイミもいるの?」
 それは、願望でもあるのだろう。
「いるよ」
 エイミの声が、セリアの耳に届く。
「え……?」
「振り向くな。目を閉じろ。お前の大切な人達に、逢わせてやる」
 レナスは地面に膝を付き、セリアの瞼に手を翳す。セリアはゆっくりと瞳を閉ざした。
「ごめん、セリア……。君の言葉を、ちゃんと受けなくて。僕にはロイさんを解放する事しか考えられなかった……」
「ロウファ……?」
「君の優しさに、感謝してる」
 ロウファの手が、ゆっくりとセリアの髪を撫でる。あの長柄の斧を自在に振る力が何処にあるの可と不思議に思える、繊細な細い指。セリアは閉ざした瞳から涙を零した。
「お前の強さが、いつも俺達を支えてくれていた。嘘をついてすまない。こんな事になるのなら、正直に打ち明ければ良かった……」
 グレイの鎧に包まれた手が、セリアの背に触れる。ひやりと凍るような鋼の感触。だが、それすらも温かく感じる。
「グレイ……」
「有難う、セリア……」
「あたしにとっちゃ、可愛い妹だったよ。あんたにとってのあたしは、無鉄砲で手のかかる仲間だったんだろうね」
「そんなことないよ、エイミ。頼もしい姉さんだもの。また一緒に、旅がしたかったよ……!」
「ごめん……」
 エイミの手が、後ろからセリアの頬に触れた。
「泣くなよ」
「エイミ達が泣かせてるんでしょ。っていうか、なんで顔見ちゃいけないの?」
「未練が残るから……」
 別な男の声が、セリアを動揺させた。聞き間違えるはずがない。この声。セリアがずっと、誰より求めていた人。唯一の、パートナー。
「お前も俺達も、顔を合わせたら未練が残る。だから顔を向けるな。あと、俺の名前、呼ぶな……」
「え?」
「悪い、俺……今でも時々、お前が近くにいるような気がして仕方ねぇから。今名前呼ばれたら、また一緒に行きたくなる……」
「行かせてよ! 私のこと、連れて行ってよ!」
 セリアが叫んだ瞬間、ロウファ、グレイ、エイミの手がセリアから離れた。閉ざされたままのセリアの眼には映らなかったが、レナスの中に、白い小さな光が三つ、するりと入り込んで消えた。
「お前に声かけた銀髪の人な、戦乙女・ヴァルキリーだ。俺も、ロウファも、グレイもエイミも、あの人にエインフェリアに選んでもらって、今、戦ってる」
「エインフェリア……?」
「あぁ。もしお前が死んだとして、ヴァルキリーがお前をエインフェリアに選定するかどうかは、解らない。だけど……これは、死人の勝手な考えなんだけど、セリア、俺、お前には生きてて欲しい。死なないで欲しい」
「私は仲間外れなの?」
 拗ねたような、泣きそうなセリアの声。この声に、弱い。逆らえない。でも。
「ごめん……」
 名を呼ぶことも許さない青年の腕が、セリアを捕らえる。後ろから、突然に抱きすくめた。そして、右手を瞼の上に押し付け、完全に眼を塞ぐ。
「カ――」
 思わずその名を口にしかけた。が、唇は突然に塞がれた。彼の、唇によって。
「言うなって。俺達、お前の近くにはいられないけど、ずっと願ってる。お前の幸せ、願い続けてる……」
 ゆっくりと唇を離し、男が囁く。その直後、彼の腕の感触も、その気配さえも、一瞬で消え去ってしまった。
 セリアは、大きく眼を見開く。だが、そこには男がふたり、伸びているだけ。かつての仲間達はおろか、銀髪の女さえもいない。
「カシェル……」
 漸く口にした、名前。本人を前に、呼びたかった名前。

「カシェル、カシェル、カシェル……カシェル―――!!!」

 どれだけ叫ぼうと、どれだけ喚こうと、彼は戻っては来ない。解っているけれど、声の限り叫び続ける。彼に届くまで。この想いが晴れるまで。



 最後まで、言わなかった。
 お互いに、絶対に言わなかった言葉。
 いつか生まれ変わったら、きっと廻り合うと信じている。その時は、あんたから言ってよ。私が言いたかった言葉。ずっと、言わずにいた言葉。
「鈍感」
 最後に天に一言吐き捨てて、彼女は前を向いて歩き出す。
 彼らの望みをかなえるために。

fin
ずっと一緒にいたのに、ずっと胸に秘めていた気持ち。
だって、ずっとずっと、一緒にいられると思っていたから。
いつか生まれ変わったら、もう一度、一緒に歩こう。
みんな、一緒に。
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