寒いですね。
 三年待ったけれど、やっぱり貴方は来ない。
 知ってますけど、貴方は来ない。
 ほら、雪が……


   弱虫サンタ


 静かに、静かに、雪が降ります。
 貴方のいないこの劇場で、僕は今でも貴方を待っています。貴方の上にも、雪は降っているんでしょうか。静かに、静かに。
 涼やかな眼でいつも飄々としていた貴方は、僕の気持ちにいつ頃気付いていたんでしょう。僕自身は、ずっと長いこと気付かずにいたんです。でも、いつでも貴方の姿を探していたように思えます。もう、ずっと長いこと。
 あの苦しい戦いを勝ち抜いて、僕達は信頼の絆で結ばれましたね。あれからずっと、貴方は当たり前のように僕の傍にいて、僕は毎日、それがとても幸せだったんです。
 僕の嬉しさ、僕の幸せ、貴方には伝わっていたのかな。
 だけど……貴方は僕といる事をどう思っていましたか。嬉しかったですか、幸せでしたか?
 僕はいつでも夢を見てました。みんなが幸せに暮らせるように、僕に出来ること全部やりたくて、いつもいつもそればかりを考えていました。それを、貴方も解ってくれていた。だから、ずっとそれに甘えてましたね。いつでもみんなを、みんなをって……一生懸命になり過ぎて、いつの間にか貴方が傍にいなくなっていたのに、気付かなかったんです。
 幸せ……が、離れてゆくことに、どうして気付かなかったのか、僕にも解りません。みんなの幸せを守る事に精一杯になり過ぎて、自分の幸せが何なのかも見失ってしまったんです。こんな僕が、誰かをみんなを幸せになんか出来るはずないのに。
 僕の目に映る貴方はいつも輝いていました。不謹慎だけど、戦いの時すら、貴方はきらきらして見えた。僕は頑張ってるつもりだったけど、貴方と並び立つにはとても未熟に思えて、せめて夢を叶えて、絆をもっと深められたらって、そう思ってました。
 本当は、一緒にやらなきゃいけなかったんだ。僕は一人で焦り過ぎてたんだ。

 ねぇ、昴さん。僕には、貴方が大事です。

 丁度、日本にいたマリアさんがアメリカに渡ってきたって話を聞きました。だけど、僕の叔父さんはマリアさんの居所を知りませんでした。探して欲しいといわれて、ラチェットさんと共に探しました。どれだけ探しても、マリアさんは見付かりませんでした。まるで、隠しているかのように、マリアさんに関する情報が一切無かったんです。渡航記録すら。
 マリアさんを探しながら、色々と慌しくしている内に冬が来て、クリスマスがやってきましたね。
 僕は貴方に、クリスマスツリーの小さな星の飾りをひとつ、プレゼントしました。
 貴方は、笑って言いました。
「昴は言った。さようなら、と」
 意味が、解りませんでした。
 その翌日、貴方は僕たちの前から姿を消しました。誰にも、何も言わずに、まるで最初からそこにはいなかったみたいに、消えてしまったんです。どうしてそんなことになったのか、僕には解りませんでした。
 だけど、後悔ばかりが後から後から胸に沸いて、息が苦しくなりました。
 昴さんがいなくなって間もなく、ラチェットさんは一度だけシアターでマリアさんを見かけたそうです。本当にちらっとで、すぐに見失ったそうですが。お客さんとしてショーを見に来ていたみたいで、最初はマリアさんだと気付かないくらい、痩せこけて青白い顔をしていて、どんな生活をしていたらあんな風になるのかと、酷く心配していました。
 あれから、三年が経ちました。僕達は、まだリトルリップ・シアターにいます。もうすぐ、またクリスマスがやってきます。
 マリアさんは、二年前に亡くなりました。ダイアナさんは、マリアさんの事をずっと知っていたのだと聞いたのはその頃でした。帝撃の副司令のかえでさんに口止めされていたらしくって、ラチェットさんにも言わなかったそうですが、ダイアナさんはマリアさんの居所を知っていました。入院していた病院も、転帰も全部。実は、サジータさんも知っていたみたいです。
「本当は、昴さんの居場所も知っているんじゃないですか?」
 サジータさんとダイアナさんに、僕は何度か尋ねました。でも、二人とも首を振るばかりです。
「知ってるわけじゃないけど、きっと今の坊やには見付けられないよ」
 一度だけ、サジータさんはそう言いました。
 その言葉の意味が、僕には今ならなんとなく解ります。今じゃないと解らないなんて、情けないですね。本当はもっと早くに気付いておくべきだった。
 “Boy(坊や)”……その言葉が、僕には本当にぴったりです。一番守りたかった貴方を、一番幸せにしたかった貴方を、幸せにできなかった。
 自分の事でいっぱいになってしまって、僕はいつでも貴方を一人ぼっちにしてました。

 昴さんは、僕が幸せにします――


 気持ちは深く、いつでもそう思っていたのに、それを口にすることが出来なくて。もし、僕がそういっていたら、ずっと傍にいてくれましたか?
 嬉しい気持ち、幸せな気持ち、僕は貴方の傍で無くては感じられません。貴方を同じように嬉しく、幸せにすることが僕には出来ないように思えて、ずっと目をそらしていました。でも、違うんです。僕は、貴方を幸せにしたいんです。
 僕はとても弱くてちっぽけで、いつまで経っても“坊や”で。
 大事な貴方が離れて初めて、貴方の本当の大切さを知ったんです。
 貴方のいない街に、今年もクリスマスがやってきます。
 貴方の部屋にクリスマスツリーはありますか? あの星を、飾ってくれていますか?
 どうか窓辺に置いておいて。そうしたら僕は、あの星を頼りに貴方を探しに行きますから。きっと見つけ出して、今度こそ必ず僕が守ります、きっと、幸せにします。
 三年が過ぎても僕は相変わらず坊やのままかもしれないけれど、三年前よりきっと、大人に近付いている。貴方を守れるくらい。
 三年が過ぎて、一番大切なことが何か解ったんです。
 僕は自分が幸せだったら良かったし、貴方が幸せなら良いとも思ってました。だけど、本当は二人で幸せになりたかったんです。二人一緒に、同じ幸せを感じたかったんです。
 そして、今の僕には同じ幸せを分かち合うことが、きっと出来ます。


 雪が降ってきました。

 静かに、静かに、雪が降ってきましたよ。

 どうしてでしょう……涙が、溢れてきました。
 昴さん……昴さん……――
 僕は“坊や”のまま勇気がもてなくて、全部を幸せにしないと貴方を幸せにも出来ない気がしていて、どうしてもいえなかったんです。
 ずっと、ずっと言いたくて仕方が無かったことを。
 言ってしまったら、絆が切れてしまうのではないかと、そんな不安も感じていたんです。
 昴さん、戻ってきませんか。
 昴さん、貴方を探し続けることを、許してくれますか?
 僕は何にも出来ないけれど、貴方を幸せにすることは出来ます。
 貴方が傍にいてくれるなら、貴方にたくさんの幸せをあげます。僕がとても幸せになることがわかっているから、貴方も幸せに出来ると思うんです。
 僕は臆病で、一緒に、と、そういう言葉を貴方にかけることが出来なかったけど。
 貴方に、幸せを山ほどあげたい。
 いや……今の僕なら、それが、出来ます。

 昴さん……昴さん……
 好きだよ。
 好きだよ。
 好きだよ、昴さん。
 一緒に、幸せになりましょう。

 これから、きっと二人、ずっと幸せでいられます。
 僕は今でもまだ、この街で貴方を待っています。傍らに、誰もいません。僕の隣りは貴方の場所だから。
 待っています。探しています。貴方のことをずっと。


 昴さん、昴さん、
 艶やかな昴さん。
 気高い、昴さん……


 静かに、静かに、雪が降ってきました。



 きっと、見つけ出します。




 貴方を、愛しているから。

Fin
いつも傍にいて気付かなかった。
貴方がどれだけ大切かって事。
本当に大切なものに気付いたから。
貴方を、きっと見付けてみせる。
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