突然襲い掛かる静寂。
 胸の中が空っぽになるようで。
 自分の弱さを痛感する。


      




 祭りの最中より祭りの前――祭りの準備をしている時の方が楽しいとよく言うけれど、祭りの“後”はどうなのだろう。

 華やかな舞台、拍手喝采、沢山の声援、そして、お客様の笑顔――。総てが素晴らしく、総てが輝かしい。何よりも、幸いの深い瞬間。私達はその一つ、一つを噛み締めるように、杯を交わす。
 祭りの前の、苦しい稽古の日々は充実していて、何もかもが勉強だった。何度も失敗を繰り返し、ステップを確実に身体に覚えこませる。喉の調整をしながら、歌の稽古。そんな、辛くも楽しい日々も、総てはお客様の笑顔のために。それらはみな、この一瞬のためにあり、どんな苦しい日々も、総てあの瞬間に報われた。幕が降りたその瞬間に沸き起こる、割れんばかりの拍手に。
 祭りの後の、もう一つの祭りもまた、大切なものの一つ。舞台での失敗を反省しながらも、その成功をみんなで分かち合う。お酒を酌み交わし、語り合う時間。楽屋は熱気に包まれ、酒が回り、言葉が飛び交い、笑顔が溢れる。

 昔は、こんな時間が楽しいと思った事なんてなかった。酒は一人で飲むもので、誰かが隣りにいるだけで煩わしかった。人と関わりたくはなかった。酒が美味しいなんて思う事も殆どなかった。何かを洗い流すためだけに毎日毎日、グラスを傾けていたような気がする。
 何も洗い流せる筈もないのに。そんな事は解っていた筈なのに。
 一人で、誰とも関わらずに生きる。心の中を空っぽにして、誰かが側にいても独りでいるような気分になる。そういう状態を、多分人は“孤独”と呼ぶのだと思う。

 私は、孤独に慣れている。



 熱気に包まれ、酒が回り、言葉が飛び交い、笑顔が溢れる楽屋。そこで、別れる。部屋に戻る。眠らなくてはならない。今日は終わるけれど、今日だけで終わりではない。
 それなのに――
 しん、と冷たい部屋。私の部屋が暖かい方が不自然だ。冷たいのは当然。……”寒い”ではなくて、“冷たい”。当然の事だと、思う。
 いつもより冷たいと思うのは、さっきまでいた部屋が暖か過ぎたからだ。静か過ぎるのは、宴会の場が五月蝿過ぎたからだ。ただそれだけで、いつもとなんら変わらない。
 けれど、胸に湧き上がる感情。不思議と感じる。

――“サビシイ”?

 私は小さく首を振る。慣れているはず。慣れていたはず。とうの昔に、そんな事には慣れたはずだから、そんな風に感じるなんて、考えられない。そう思うのだけど、やはり、静か過ぎて、冷た過ぎて。
 以前、隊長の前で口にした。
「弱くなったのかも知れない」
 私は、本当に弱くなってしまった……。こんな事に、“孤独”を感じてしまう。漠然とした、寂寥感。
 私は振り返り、ドアのノブを掴む。しかし、その手はすぐに離してしまう。部屋を出て、どこへ行けば良いというの? 馬鹿馬鹿しい。弱くなっても、頑固さは変わらない。“サビシイ”なんて、言えない。
 眠ってしまおう。何も考えずに。そうしてコートを脱ぐと、突然、誰かが扉を叩く。
「はい?」
「マリア、あたい。起きてるか?」
 起きてるから返事したんだけど……、とは言わずに。
「ええ。どうぞ」
 ひょっこりカンナは赤い髪を覗かせ、照れたように、はにかんだ笑顔を見せる。
「どうしたの?」
「あのさぁ……なんか、あれだけ騒いだ後に独りになると寂しくってさ。……も少し飲まねぇか?」
 手にした一升瓶を掲げる。
 “寂しくて”
 その言葉を素直に言える貴方が羨ましい。けど、それも言わない。

 嬉しいから。

「良いかな?」


「……うん……」

 嬉しそうに微笑む親友に、私も笑顔を見せる。
 “サビシイ”なんて言わない。私の分まで、貴方が言ってくれるから。




宴の後、どうしてこんなにも寂しくなるんだろう。
こんな風に思うくらいなら、最初から知らなければ良かっただろうか。
いいえ、きっと、それを知ったから、貴方の愛しさが深くなる。
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