「たまには良いんじゃないか? こんな日があっても」
「たまには良いですね。こんな日も……」



    鬼の日



「あ、大神さん。今日、二月三日なんですね」
「そうだね。それがどうかしたのかい、さくら君?」
「もう、大神さん。二月三日といえば、節分じゃないですか!」
「あぁ、そうか……」
「セツブン……? って、なぁに、お兄ちゃん?」
「節分ってのはな、アイリス。豆撒いて豆喰う日だよ」
「そうなんだぁ……。って、何でカンナが説明するの!?」
「カンナさん、貴方はどうしてそう食べ物の事にしか話題が行かないんですの!? 説明が全く不十分じゃありませんこと!?」
「すみれまでぇ!」
「節分は、季節の変わり目、つまり、立春、立夏、立秋、立冬の前日をさす言葉。特に立春の前日」
「レニ、それでも不十分やで。それだけの説明やったら何でさくらはんがうきうきしてるんか解れへんわ」
「そうで〜す。まぁどっちにしても、そんなにうきうきするような行事でもないですけどね〜」
「レニ! 紅蘭!! 織姫ぇ!!!」
「怒りなや、アイリス。このままアイリス達三人だけの会話が続いたら、うちらは存在している事すら危うくなってしまうんやから。頷いたって首振ったって誰にも解ってもらえへんねんで」
「そうそう。紅蘭の言うとおりだぜ。だから……何か喋れ、マリア」
「え……あぁ、そういう事よ、アイリス」
「あのなぁ、さっきも紅蘭が言ったけど、頷いたって誰も解っちゃくれないんだからなっ」
「って、マリアさん、言ってる側から頷かないで下さ〜い」
「ゴメンなさい」
「それより、アイリスにちゃんと節分の説明をしないと」
「あぁ、そうですね。大神さんお願いします」
「アイリス、節分っていうのはね、一年間健康に暮らせますようにってお祝いする日なんだ。それから、何でだかよく解らないんだけど、節分には鬼がやってくるといわれている。その鬼をやっつけるために豆を撒いて鬼を追い払い、自分達は年の数だけ豆を食べる事になっているんだ」
「解りやすいようで解り難い説明だな……」
「どうして鬼が来るのか解りませんの、レニ?」
「節分……季節の変わり目、つまり、立春、立夏、立秋、立冬の前日をさす言葉。特に立春の前日。ボクの辞書にはそれしかない。それ以上の事は知らない。ボクはそんな風習を知らない」
「そうね。残念だけど、私も知らないわ」
「あ、これは私知ってますよ。昔、祖母に聞いた事があります。確か、室町時代……かその辺りで、その頃の帝都・京都に鞍馬山の鬼が出てきて、悪さをしたんで、追い払うために豆をぶつけたんだそうですよ」
「どうして豆で鬼が退治出来ますの?」
「それは、毘沙門天様のお告げだそうですけど……」
「……どうして、みんなしてボクを見るの?」
「いや、何となく……」
「結構知らない事が多いですね〜。日本の風習も、謎が多いで〜す」
「そういえば、今までやったことあれへんもんなぁ、節分。不思議やわぁ。うちは神戸におった頃毎年やっとったけど」
「それじゃ、これからみんなで豆撒きしましょう!」

「んー。でも、さくら、オニってなぁに?」
「えっ!? アイリスは、鬼を知らないのかい!?」
「知らないよ、お兄ちゃん」
「そういや、鬼の出てくる物語ってのもやった事ねぇなぁ。桃太郎も浦島太郎も金太郎もやった事ねぇもんな」
「浦島太郎にも金太郎にも鬼は出てきませんわよ。一寸法師には出てきますけど」
「……そうだっけ? あれ? 金太郎って、鬼と相撲とってなかったっけか?」
「それは熊よ、カンナ。金太郎――つまり坂田金時が主君と共に鬼退治に行くという話はあるけれど」
「全く、自分のお仲間の活躍する話くらい覚えて差し上げたらどうですの?」
「あんだと、誰が鬼だぁっ!?」
「カンナ、すみれ! こんな所でいきなり取っ組み合っても誰も解らないじゃないの。やるだけ無駄よ」
「鬼。想像上の生物。人型。巨大で頭に角、口に牙がある。怪力。無慈悲。肌の色は赤や青といわれる。また、怪力の人間、無慈悲な人間を指す比喩表現」
「イチイチ辞書に載っているような説明を有り難う」
「絵に描いた方が解りやすいで〜す。アイリス、鬼とはこんな生物で〜す」
「……ヤギさん?」
「織姫さんのお父様って、確か画家さんでしたよね……?」
「だったらさっくらさん、描いてみれば良いで〜す!」
「良いですよ。アイリス、鬼っていうのは、此処がこうなってこういう風に……ほら出来た!」
「……ヒツジさん?」
「お前らなぁ……;;」
「俺がかわるよ、さくら君。良いかい、アイリス。鬼って言うのはこぉいう……」
「…………大神はん、士官学校には美術の時間なかったん?」
「っつーか、あっても成績表にアヒルが泳いでたクチだろ?」
「まだ輪郭もろくに描いてないのにそこまで言われる俺って……」
「……こんなだと思う」
「レニ、上手いわ! 諦めて書庫から絵本でも探して来ようかと思ってたのに」
「有り難う、マリア」
「でも、こんなへんな生き物いるわけないよぉ」
「アイリス……」
「今まであたいらが戦ってたものって……;;」



「それにしても、鬼といえば、陰陽道で鬼門ってありますよね。不吉な方角。どうしてあれって、鬼門なんでしょう?」
「また唐突やな、さくらはん……」
「だって、鬼の話題が出たらなんとなく思い出しちゃったんですもの」
「まぁ、そういう事もあるよな」
「確かに、どうしてだろうな……」
「知ってる、レニ?」
「知らない。マリアは?」
「私もちょっと……」

「という事は、私の出番ね!」

「うわぁっ!! かえでさん、いつからいたんですか!?」
「ホント、いてもいなくても解らないわね;; カンナ登場の辺りからしっかりいたんだけど……」
「そんなことより、どうして鬼門は鬼が現れる方向なんですか?」
「そうね。鬼門は、艮の方角でしょう? 丑と寅の間だから。つまり、牛も虎も倒して現れるほど強いという意味合いがあるのよ。だから、鬼は虎の衣を着て、牛の角を持っているでしょう?」
「成程なぁ……。それやから南南東向いて海苔巻丸かじりするわけやな」
「よくそこまで話繋げたな。鬼門の話って、このための伏線だったのか……?」
「それより、艮の方角は北東よ」
「う……。つ、つまりや。鬼門に背を向けて……」
「鬼門に背を向けたら坤。南西の方角だわ。裏鬼門といって、これもまた不吉な方角よ」
「……もう、ええわ」

「それにしても、紅蘭。どうして海苔巻を丸かじりするの?」
「それは知らへんなぁ……」
「しかも何で南南東?」
「さぁ。ただ、今年が南南東なだけやで。毎年変わるんや。去年は確か北北西やったかなぁ……。それにな、食べとる間は喋ったらあかんのや」
「鬼門はかわりませんよ〜。鬼門はいつまで経っても艮で〜す」
「せやな……;;」
「けど、ますます解らないわ。かえでさん、何かご存知ですか?」
「そこまでは、ちょっと……。関西の方の習慣だと聞いたことがあるけど」
「愛知で産まれた風習。大阪説もある。一九七七年、大阪海苔問屋協同組合が節分のイベントとして道頓堀で寿司食い競争を実施し、それをマスコミが取り上げ、全国の寿司屋さんがそれに便乗して全国に広まったといわれている」
「物知りね、レニ……」
「七七年て……?」
「は……はは。まぁ、良いじゃないか、その辺は。毎年方角がかわるのは、毎年縁起の良い方角がかわるからだよ。歳徳神のある方角を、その年の干支を基に決めるんだ。「福を巻く」から巻寿司で、「縁を切らない」ようにするために包丁を入れないんだよ」
「さすが大神さん、物知りですね」
「だが、何で大神が知ってるんだ?」
「か、加山っ……!」
「あら、どこから湧いて出ましたの?」
「湧いて出たとは酷いなぁ、すみれさん」
「それより、何で大神が知ってるんだ、それ……」
「そういえば、大神はんが正月に作ってくれたお雑煮関西風やったなぁ……」
「美味しかったよぉ」
「白味噌仕立てでしたね〜。なかなかお上品な味わいだったで〜す」
『で、なんで?』
「全員声合わせて言わないでくれよ……;;」


「そんな事より、巻き寿司食べようや!」
「誰が作るの?」
「こんな事もあろうかと、うちが発明しといた、その名も『まきまき君』や!」
「なんだか嫌な名前ですわね……」
「名前だけでどんな機械か解るところが凄いわ……」
「そないなこと言わんと……って、何でみんなソファの後ろに隠れとるんや!?」
「早く作るで〜す」
「作れるものなら」
「レニ、今なんか言うたか?」
「別に何も」
「まぁ、ええわ。見ててや〜。スイッチ・オン!!」



「いやぁ、凄い煙だったなぁ」
「なんだよ、効果音も入らないのか!?」
「それでも何となく何があったかが解るから凄いよね、お兄ちゃん?」

「いや……何となくは解っても、どれだけ悲惨なものかまでは解らないぜ、アイリス」
「カンナの言う通り。あぁ、なんて酷い……これがあの美しかった帝劇なの? ボクの大好きな帝劇が跡形も無く……」
「大爆発……そして、次に目を開けた瞬間、そこは焼け野原。見渡す限り、瓦礫の山……」
「科学の発展も、使い方を誤ればこの有様」
「泣くな、レニ。あたい達にはこれからやらなくてはならない事がある。まず、マリア達の亡骸を弔――ってぇ。マリア、今本気で殴りやがったなぁ!?」
「大人しく聞いてたら、何を言い出すのよ。全く、勝手に殺さないでちょうだい」
「大体、そんな爆発してへんやないの……。いつもと同んなしくらいやで。人の作ったもんを核兵器みたいに……」
「けほっ。隠れてても意味無かったですね〜。米の代わりに豆でも入れておけば、ちょっとは炒れて良かったかも知れないで〜す」
「きっついなぁ、織姫はん」
「それより、お豆はいつ食べるの?」
「そうね。豆も用意しないとね」
「そういうと思って、ちゃんと用意してあるわよ、さくら」
「さすがかえでさんです。えっと、確か豆は……」
「年の数に一つ足した数を食べるんですよね?」
「その通りよ、大神君。旧暦では一月一日は立春の前後だったから、立春は一年の始まりの一つで、節分は一年の締めくくりだったのよ。だから、豆をまいて鬼を追い払って新年を迎えようって事になったのね。豆を年の数より一つ多く食べるのは、来年の分も食べるからなのよ」
「へぇ、そうなんだぁ」
「じゃぁ、また七福神巡りね!」
「それは違うと思う……」
「あら、残念」
「えっとぉ、むかしの風習だからぁ、年は数え年になるのかなぁ?」
「よく知ってるわね、アイリス。数え年なんて」
「うんっ!」
「それじゃぁ、隊長とすみれ以外は年齢足す二で数え年か……」
「あら、旧暦では明日が新年なんだから、まだ実年齢足す一でしょう、カンナ?」
「旧暦? 新暦? どっちだ?」
「どちらでも良いんじゃないかしら……。まぁ、今なら新暦で考えても良いと思うわ」
「ってことはぁ……アイリス、九十二歳だね!!」
『何でだよっ!?』


「おぉ、みんな集まってるな」
「支配人!」
「海苔巻き、買って来たぜ」
「え、どうして支配人が……」
「加山の奴が『節分といえば太巻きだ』って言ってやがったからよぉ。取り敢えず買ってきてみたんだ」
「そういえば、加山隊長は和歌山のご出身でしたね。……良い所ですね、和歌山は」
「……マリア? どうしてマリアが加山の出身を知ってるんだい?」
「え……それは……」
「しかも、和歌山に行った事があるのか……?」
「妬くな、大神。俺達の仲がそんなに気になるのかぁ?」
「か、加山隊長!」
「気安くマリアの肩を抱くな、加山っ! かくなる上は……狼虎滅却――」
「だぁぁぁ、それはやり過ぎだ、隊長!」
「落ち着きなさい、大神君!」
「すみません、隊長……。詳しい事は後ほどお話しますから。でも……私がいつも誰を想っているか……疑わないで下さいね。私が想うのは、ただ一人――」
「おぉい、そこのバカップル、ラヴラヴムードはその辺にしといてくれねぇか。ちょっと背後が怖いんだが」
「言ってくれますね、支配人……」
「それより、大神。行くぞ」
「行くって、何処へ?」
「こっち来い、大神。耳貸しな。実は、ゆ……」
「『節分おばけ』……とかじゃありませんよね、支配人?」
「お……おぉ、怖いな、マリア」
「まさか、アイリス達もいるこんな場所で、花柳へ行くなんて言いませんよね? で、夢花さんが……なんです?」
「マリア、俺はまだ名前なんか出してないぞ」
「まだ、って事は、出すおつもりだったんですね、支配人?」
「いや、だから……。大体、どうしておめぇさん、そういう事知ってるんだ!? 『節分おばけ』とか夢花とか……」
「とある情報筋から伺いまして……」
「あのぉ〜、夢花さんて、確かあの芸妓さんですよね……?」
「さくら君まで……」
「いやぁ、大神。もてる男はつらいなぁ!」
「加山! 何でそんなに離れてるんだぁぁ!?」
「アイリスもいるんだから、穏便に行こうぜ、なぁ、二人とも?」
「アイリスやったら、目も耳もふさいどるし、どぉんと行ってや、二人とも!」
「紅蘭まで!」
「どうやら、あたいらが愉快に思える話じゃぁなさそうだなぁ……」
「一応、私はこの子達の保護者でもあるわけですし……教育上、やっぱりそういうことは、アイリス達の前で話してもらっては困りますね」
「かえでさん、徐ろに「白羽鳥」抜くの止めて下さい!」
「私もやるで〜す」
「中尉、色々詳しく聞かせていただきますわ」
「って、いつの間に俺だけが狙われる事になってるんだっ!?」
「自業自得や、大神はん。レニ、パス」
「何で、どうしてそうなるんだ!?」
『問答無用!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」







「静かになったねぇ、レニ」
「そうだね、アイリス」
「マリア達が鬼みたいだった〜」
「……大人は怖いね。それじゃ、鬼の居ぬ間に……」

「いただきま〜す」


おわり。
節分ネタ。
節分に関する知識は此処で出し尽くしました;;
偶にはこんな形もありですよね。
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