白百合


 選ばれた「聖母」
 選んだ彼は、神様?

 聖母と呼ばれる娘の名は私と同じ
 いえ
 私の名は「聖母」と呼ばれる娘が由来
 「マリア」

 永遠の処女
 聖き乙女
 楽園に生まれて慈しまれ
 異性と交わる事もなく
 一度も汚れる事なく
 神の加護を以て
 その身に赤子を宿た娘

 私とはあまりに違う娘
 あまりに違い過ぎる娘
 私の父母も彼女を愛し
 彼女を崇拝して
 私の魂にその名を刻んだ

 「マリア」
 永遠の処女
 「マリア」
 聖き乙女


 楽園に生まれて
 囲われて育ち
 生きて
 籤引きで夫を決められ
 夫と交わる事なく神の子を宿し
 楽園を離れて夫と旅をして
 行き着いた厩で星の光に照らされて子を産み
 その子は神の子と敬われ
 誰もに愛されながら
 王の反感を買い
 はりつけにされ
 世界中で最も有名になる
 死後も尚世界中で崇めたて奉られ
 世界中で戦の火種となる
 娘もまた……


 彼女は幸福な人だった?
 本当に?
 
 楽園に縛り付けられていたのに
 愛など関係なく夫を決められ
 愛したかと思えば
 神の使いに妊娠を告げられて
 一度は夫・ヨセフも彼女を疑ったという
 誤解が天使の力で解けたかと思えば
 生まれながらに与えられた安寧の生活から追い出され
 苦しい旅に出た
 貧しく、飢えや寒さと戦いながら
 膨れて重くなる腹
 十二月のベツレヘムが寒くないわけがない
 それでも神様を一度も恨む事なく
 一度も疑う事もなく
 愛し続けたというの?
 そうして苦労して生まれた子供を
 愛し、育てて――殺されて
 子も彼女も死んだ後も
 敬われたけれど
 絶える事ない戦の言い訳に利用されている
 彼女らは何を望んだの?
 戦争なんて望んでいた?
 一人じゃ生きられなかった彼女が
 ヨセフの力なくして生きる事など
 きっと出来なかったであろう彼女が
 人と争い
 敵を作り
 傷つけ合う事など
 果たして本当に望むのだろうか?
 彼女は正しい人ではない
 人なのだから間違いも犯すでしょう?
 間違っても真っ直ぐに生きるからこそ
 人は美しいの
 彼女は聖母でありたいと望の?
 彼女は人であろうと
 聖母であろうと
 どちらでも構わないのではないのか……
 そんな事で
 戦を起こす訳も解らないのではないの?
 私は彼女ではないから解ろうはずもないけれど


 私は平和であれば良い
 私は愛する人が幸福なら何も要らない
 神様だって要らない


 彼女は神様を一度も恨む事はなかったの?
 彼女は神様を一度も疑う事はなかったの?


「白百合」に例えられる乙女。
誰もが知る聖なる存在。。
その心の奥底を見てみたいと思うのは誤りだろうか。

マリアの、密かな疑問。

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