足首


 かの美しい人の手に触れた時
 指先が触れただけで
 捕われる、気がした――

 ぞくぞくとする、それは快感、か

 美しいと思う
 恐ろしいと思う
 惑わすように
 搦め取るように
 妖しく指先が漂う

 軍服を着ていると
 軍人の凛とした面差ししか見えないのに
 一度軍服を脱げば
 女のそれになり
 眼差しに射殺されそうになる
 魔性――そんな言葉が、脳裏をかすめる
 なのに彼女は純粋なのだ
 何気ない言葉一つに頬を染め
 何気ない仕草一つに恥じらいを見せる


 副司令官の身でありながら
 戦場にて傷を負った彼女は
 どこか安堵を見せた

 「何故」
 心の隅から僅かに漏れる
 安堵に、笑みに
 問う

 彼女は笑う
 寝台に伏して笑う
 扉の前に立つ俺に笑いかける
 「このくらいはね」
 「副司令官でありながら、負傷など」
 「死ぬわけじゃないわ……」
 彼女は視線を落とし
 その脚の先に負かれた包帯を見やる
 「けれど、このくらいならば」
 「貴方は……」
 俺の言葉を遮るように首を振る
 「明日は、本番なのよ」
 にっこりと笑う
 優しく穏やかに
 姉のように
 母のように

 彼女は――


 こんな顔をされて
 触れたいと思わない男はいない
 こんな顔をされて
 間近に寄りたいと思わない訳がない

 彼女は――

 こんな顔を見せるのは
 俺しかいないと解ってる
 こんな顔を見せられて
 けれど俺が近寄れない事も解ってる

 彼女は、魔性だ――

 足首の生々しい包帯が
 妖しく誘う
 理性を掻き乱す
 彼女は無邪気に笑う


 あぁ、彼女は――



「足首」に巻かれた包帯。
微笑みの裏になにを隠す?
その心を、どうか、見せて……

加山の、密かな願い。

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット