本当のところ、どうなんでしょう?
 “愛”ってヤツなんじゃないんでしょうか?


         
派手好み
  〜瀬田宗次郎、魚沼宇水について考察する〜


「方治さーん」
 やっぱり、解らない事は考えたって解らないんだ。誰かに聞いた方が良い。誰かっていうのは物知りな人じゃないと。となったら、やっぱり『百識』の名を持つ方治さんが良い。
 あ、どうも、ご挨拶遅れちゃいました、瀬田宗次郎です。志々雄さんの十本刀のひとりで、『天剣の宗次郎』なんて言ってもらってます。『天剣』っていうのは、『天賦の剣の才能を持つ』って意味らしいです。あだ名ですね。二つ名っていうんですかね。十本刀には全員にこういう二つ名が付いてます。『飛翔の蝙也』とか、『大鎌の鎌足』とか、『明王の安慈』とか。方治さんの『百識』もそうです。誰が付けたんだろ……方治さんかな? 自分で『百識』とか言っちゃうんだ。カッコイイな。
 あ、志々雄さんのこととか、十本刀について詳しく知りたい時は、方治さんに聞いて下さい! すっごく詳しく教えてくれると思います。
 で、そうそう、僕は気になることがあったんだ。それを方治さんに聞こうと思ってて……。
 実は、十本刀の中には、目が見えない人がいるんです。でも、凄い剣の使い手なんですよ? ちなみに、その人の目を潰したのは志々雄さんなんですけどね。で、まぁ、そんな事情から志々雄さんの命を狙ったりなんかしてる人です。志々雄さんは志々雄さんで、そんな人を十本刀に入れて取引してます。その、『盲剣』の二つ名で呼ばれてる魚沼宇水さんが、僕にとって謎な人なんで、その辺を方治さんに聞いてみようと思います。
 そんなわけで、ご挨拶と説明はこの辺にしといて、本編に戻りますね。



「方治さーん」
 あ、この人が『百識の方治』こと、佐渡島方治さんです。志々雄さんの参謀ってヤツですね。
「なんだ、宗次郎?」
「質問なんですけど、『天剣』とか『飛翔』とか、二つ名(?)って、誰が付けてるんですかぁ?」
「む? 私だが?」
「やっぱりそうなんですね!」
 志々雄さんは、こういうのイチイチ考えるの好きじゃなさそうだし。「宗は宗だ」で、終わりそう。
「まぁ、張のように初めから刀狩りを名乗っているものもあるがな。鎌足もそうだ」
「へぇー。方治さんの『百識』も自分で付けたんですか?」
「えっ……あ、まぁ、そうだが?」
「自分で『百識』って言えるなんて、カッコイイですね!」
 僕の一言に、方治さんはドン引きした。
「な、な、そ……いや、それはだな――」
 あれ? 誉めたのに。ま、良いや。それに、
「そんなことより、他に聞きたい事があるんですよ!」
「先にそっちを言え!」
 あ、怒った。
「あのですねぇ、宇水さんの事なんですけど」
「宇水?」
 方治さんの顔が強張る。志々雄さん大好きな方治さんには、志々雄さんを殺しちゃいたい宇水さんは天敵も同然なんだろうなぁ。
「宇水さんて、目が見えないんですよね?」
「は? あぁ……」
 方治さんはきょとんとしていた。当たり前か、「何を今更」って思うよね。
「方治さん、宇水さんは目が見えないのに、どうやって――」
 そう、ずっと気になってたんだけど。
「どうやってあの服を選んだんでしょうか?」
「………………は?」
 さっきまできょとんとしていた方治さんが、今度は三白眼をぱちぱちさせた。どっちにしても、僕の言ってる事が理解出来ないって事だと思う。
「だって、目ですよ?」
「目……だな」
「しかも、『心眼』鉢巻きで見えない目を目隠しですよ?」
「目隠し……だな」
「……なんで、あれなんでしょう?」
「宇水に聞け!!」
 あ、怒った(珍しく)。
「宇水さんの心眼て、異常なまでに研ぎ澄まされた聴力ですよね?」
「……どういう事だ?」
 聞き返された。あれ、もしかして方治さん、知らないのかな?
「宇水さんは、ものすっごく耳が良くて、心臓の音や筋肉の動く音まで聞こえるんです。だから、背後の相手の動きまで解るんですよ」
 説明してあげると、方治さんは神妙な面持ちで僕を見た。
「宗次郎、何故それが解った? もしかしたら、その情報は、今後志々雄様のお役に――」
「宇水さんが言ってました」
 僕が答えると、方治さんはまた眼をぱちぱちさせた。
「はぁ?」
「宇水さん、自分で言ってましたよぉ? 志々雄さんも、知ってるんじゃないかな」
 って言った瞬間、方治さんは両膝と両手を床についた。あ、“しょっく”っぽい。
「あの男、仮にも十本刀の一員でありながら、べらべらと自分の弱点を喋るとは!」
「あー……まぁ、それでも『必ず勝つ』とか思ってるんですし、別に良いんじゃないですか? それより、あの服ですよ! あと、あの部屋! あの部屋の内装を決めたのも宇水さんなんですよね? 自分じゃ見えないのに……」
「まぁ、そうだな」
「目が見えなくなる前からああいうの好きだったんですかねぇ?」
「宇水の好みまで、知らん!」
 あ、やっぱりちょっと怒ってるみたい。っていうか……
「誰の好みなら解るんですか?」
「むっ……」
「志々雄さん? 由美さん? 僕の好みは解ります? あ、鎌足さんとかっ!?」
 方治さんの顔が、一瞬で真っ赤になる。お湯の中に放り込んだ蟹みたいだ。あれー、あれ? ん?
「なーに、宗ちゃん、呼んだー?」
 いきなり、ひょこっと鎌足さんが顔を出した。
 見た目は女の人みたいですけど、実は男の人なんですよ。
「呼んでないですよ?」
「なぁんだ、私が可愛いとか噂してんのかと思った。ま、宗ちゃんが私の事好きになっても、私は志々雄様一筋だけどねーっ」
 僕が答えると、鎌足さんはからからと笑った。
「鎌足さんの事は好きですけどね」
「いやぁ〜ん、私もってもて〜」
「そういう意味でいっているのではなかろう」
 きゃっきゃっと楽しそうな鎌足さんに、水を差すように方治さんが口を挟む。鎌足さんはぷくっと頬を膨らませ、方治さんを睨んだ。
「ふん、知ってるわよ。それに宗ちゃんは、私より志々雄様の方が好きだもんね?」
「当たり前だろう」
 ちょっと怒り気味で、また方治さんが答える。
「あんたには聞いてないって。でも、宗ちゃんが志々雄様らぶじゃなくて良かった。流石に、どんだけ頑張っても、宗ちゃんに勝てる気はしないしねー」
「由美なら勝てるとでも思っているのか。男のくせに」
「ふんっ」
 いちいち突っ込む方治さんについに鎌足さんは怒ってしまったみたいで、ぷいっとそっぽを向いた。うーん、方治さんも素直じゃないなー。って、なんか変かな?
「恋敵ってやつですかぁ……。あれ、志々雄さんって、もしかして派手な格好してる人好きなんですか?」
 僕は、方治さんに聞いた。やっぱり、一番の物知りは方治さんだと思うから。
「む……?」
 何を言ってるのか解らないっていうみたいに、方治さんは眉根を寄せた。なんていうのかな……僕、説明苦手だからなぁ。
「志々雄さんの気を引くために派手な恰好してるんでしょうか」
「え、私、そんなに派手? 由美のやつは派手って言うよりケバイでしょ。でも、私は別に志々雄様の気を引くためとかじゃないのよ? だって私に似合うでしょ? 可愛いでしょ? 大体、派手さなら張とか宇水の方が派手じゃん?」
「張さんも派手ですよねぇ」
「宇水もな」
 方治さんがうんうん頷く。僕も、ちょっとだけ頷いて、
「宇水さんなんですよ」
「む?」
「宇水さんて、志々雄さんの事、好きなんじゃないですか?」
「「…………は?」」
 ふたりが声を揃えた。そう言われるとは思ってたけど。
「宇水は、志々雄様を殺そうと付け狙っているようなやつだぞ?」
「それって、建前じゃないですか?」
「建前?」
「だって宇水さん、志々雄さんに勝つ事なんか諦めてるじゃないですか」
「――――え?」
 鎌足さんが硬直した。方治さんも驚いた顔してる。やっぱり、気付いてなかったんだ……。多分、気付いてるのは僕と志々雄さんくらいかな。もしかしたら安慈さんは気付いているかもだけど。
「殺すの諦めてるのに、あれだけ目を引く格好で志々雄さんに付き纏ってるのは、志々雄さんの事好きだからかなぁって思ったんです」
「まっさか〜」
 そんなわけないない、と笑い飛ばす鎌足さんの頬が、引き攣る。
「ですかねぇ。僕もレンアイとか解らないんですけどね。でも、目が見えないのに、しかも、暗殺が得意なのに、あんな派手な恰好をしているっていうのは、誰かの気を惹くためなんじゃないかなーって思っちゃうんですよねぇ」
 言うともなしに言うと、「ないない」と、思い切り笑いながら鎌足さんは去って行った。方治さんも「私はお前の讒言に付き合う暇はない」と、どこかへ行ってしまった。
 翌日、鎌足さんは、化粧が濃くなったと由美さんに突っ込まれて喧嘩を始め、方治さんは宇水さんに目を向けすぎて色々突っ込まれてた。あの人、嘘つけないからなぁ……



 宇水さんのあの派手な格好は……本心を隠すため?
 諦めてないって強がるため?


 見え見えなのに……
 本当のところ、どうなんでしょう?

fin
所詮この世は弱肉強食。
弱いくせに生かされてる貴方の存在意義なんて……



INDEX

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット